Electro Magnetica Numerica (EM)は、広義ではFinite-Difference Time-Domain法を用いたシミュレータです。Maxwell方程式の離散化手法は、正確に言うと、Thomas Weiland教授(Technische Universität Darmstadt)の提唱した、Finite Integral Technique (FIT)を用いて離散化しています。EMが他のシミュレータと最も異なる部分は用いている格子が非構造格子系の技術を用いているところです。このレポートでは、その独自の格子についてご紹介します。

いうまでもなく、FD-TD法はYee格子、つまり構造格子系を用いています。構造格子はその単純な構造から、実装もしやすく使い勝手の良い格子です。しかしながら、離散化空間のなかでとらえたい現象の大きさが大きく異なる場合、小さい方にあわせて細かい格子を用いなければならないため、大きな無駄が生じてしまいます。このような問題に対して、非構造格子という、有限要素法などでよく用いられる格子が考えられました。

非構造格子は、四面体などの構造の組み合わせで、複雑な形状に適合させることが出来、構造格子の直交六面体にくらべて非常に柔軟性があります。必要な箇所に格子を集中させ、必要のない部分の格子を粗くすると言う、適合格子になっています。

その一方、FEMは、FDMに比べて、格子(セル・要素)あたりの計算量が多いのが難点ですが、適合格子による要素そのものの削減があり、全体として実用レベルにあるといえます。

数値電磁気学の分野では、もともと、構造解析のシミュレータをそのまま流用した形のFEMが主流でしたが、近年、計算機能力の向上とともにFD-TD法が主流となってきています。その中で、適合格子的な手法として、Subgrid法が提案されました。これは、高解像度が必要な部分にパッチ領域を定義し、そこに細かい格子を畳重させるという手法です。多くの手法が提案されていますが、多くのアルゴリズムが数値敵不安定現象に悩まされています。

さて、近年、Adaptive Cartesian Grid (直交適合格子)法と呼ばれる方法が、計算流体力学の分野で注目され始めています。これは構造格子と同じ直交六面体を、高解像度が必要な場所に適合させる方法です。そのデータ構造から分類としては非構造格子と分類されています。

その手法は単純です。最初に計算領域を一つのセルとします。ルートセルと呼びましょう。このセルを順次必要にあわせて半分に分割していくのです。例えば2次元問題でしたら、一つのセルが、4つの等しいチャイルドセルに分割されます。三次元でしたら8つのチャイルドセルになります。

一般的には、データ構造はツリー構造になります。二次元なら四分木、三次元なら八分木を用います。もちろん、一般的な非構造格子でもちいられる、セル間の接続関係としてデータを持つ場合もあります。

このようなアルゴリズムは米国の研究者によって発案され、発展してきました。近年、米国Langray国立研究所のAftosmis氏によって開発が進められていたCart3Dという流体シミュレータが、Ansysによってライセンスされ始めたことからも、業界の注目度の高さが伺われます。

Cart3Dに用いられている直交適合格子は、かなり非構造格子的で、FD-TD法で用いられるLeap-Frog離散化法とは整合性がよくありません。

そこで、Three Wellsでは、直交適合格子の初期に提案された、BlockedAdaptive Cartesian Grid法に注目しました。これは、Cart3Dの一つのセルの代わりに、一塊の格子を含んだ領域を定義したものです。この手法は、近年、日本でも中橋東北大学教授らのグループで精力的に研究・開発が進められています。この手法を用いれば、最小計算単位が一般的なYee格子とすることが出来、FD-TD法が応用できることになります。

EMは、世界で初めて数値電磁気学の分野で、このブロック直交適合格子を用いたシミュレータです。また、Subgrid法で悩まされた数値不安定現象も、10万回の反復による検証にも問題は起きないことが確認されています。

 

 


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